結婚相談所でありながら、紹介者から「ここは寺ですね」と言われるマリッジテラス五反田。婚活者が抱える悩みの奥にある“人生の棘”に向き合い、前を向くきっかけをつくる高野洋子さんに、仲人という仕事への思いを伺いました。
〈聞き手=笠原 佳介〉
今回話を聞いた人
マリッジテラス五反田 / 代表婚活カウンセラー
マリッジテラス五反田 代表。五反田を拠点に、街の駆け込み寺のような結婚相談所を運営。「愛する人と結婚する」を大切に、結婚をゴールではなくスタートと捉え、会員一人ひとりの悩みに親身に向き合っている。成婚だけを目的にするのではなく、「この人と結婚して本当によかった」と歳を重ねるごとに愛が深まる夫婦を増やすことを使命としている。結婚後も気軽に相談できる存在として、会員や紹介者から厚い信頼を集めている。
高野さんの魅力は、婚活を単なる出会い探しではなく、「愛する人とどう生きていくか」まで見つめているところにあります。結婚後も相談できる駆け込み寺として、会員の人生に責任感を持って向き合う姿勢に、仲人という仕事の本質が表れていると感じ、お話を伺いました。
結婚相談所と聞くと、プロフィールを見て、お見合いを組み、交際をサポートし、成婚まで導く場所を想像する人が多いかもしれない。
けれど、マリッジテラス五反田の代表・高野洋子さんの話を聞いていると、そのイメージは少しずつほどけていく。
高野さんのもとに訪れる人たちが抱えているのは、単に「出会いがない」「いい人に巡り会えない」という悩みだけではない。過去の恋愛、家族との関係、自分でも気づかない心の癖。婚活のつまずきの奥には、その人がこれまでの人生で抱えてきた“棘”のようなものが隠れていることもあるという。
ある紹介者からは、こう言われたことがある。
「ここは寺ですね」
なぜ、結婚相談所が“寺”と呼ばれるのか。
五反田という街で、婚活者にとって「悩んだときに思い出す場所」をつくり続けてきた高野さんに、仲人という仕事への思いを聞いた。
「ここは寺ですね」と言われた、ある夫婦喧嘩の帰り道
ご紹介者の方から「ここは寺ですね」と言われたことがあり、マリッジテラス五反田は「マリ寺」と呼ばれることもあるそうですね。どんな場面でそのように言われたのか伺ってもいいですか?
以前、ある男性が人の紹介でうちに来てくださったんです。その方は離婚歴が2度あり、恋愛では熱しやすく冷めやすいところがありました。ご友人からも「自分で選ばない方がいい」と言われて、うちに来られたんですね。
その方は最終的に、独自の感性を持っていて自分の思い通りには動かないような女性と結婚されたんです。いま結婚して10年目になりますけど、すごく幸せだと連絡をくださいます。
でも途中で一度、夫婦が大喧嘩になって、うちに相談に来たことがあったんです。
どういう喧嘩だったんですか?
猫を飼う・飼わないで大喧嘩していたんです。
猫を飼うかどうかで、ですか…?
そうです。奥さまが保護猫活動をされていて、猫を3匹飼うことになったんですね。ご主人は1匹ならいいけれど、3匹となるとストレスが大きかった。猫って空中戦じゃないですか。パソコンの上とか、コーヒーメーカーの上とか、乗ってほしくないところに乗るんですよね。
それで「私が家に行って状況を見ます」と言って、家庭訪問をしたんです。そのとき、紹介者の男性も一緒に来てくださって。
結婚相談所で家庭訪問までするんですね。
しますね。二人ともヒートアップすると意見を曲げないタイプだったので、これは訪問するしかないと思って。
実際に話を聞いていくと、猫そのものが問題というより、奥さまが猫にお金を使いすぎていることにご主人が怒っていると分かってきたんです。猫のためにオーガニックのものを買ったり、いろいろ出費が重なっていた。彼の怒りの方向性は、お金だったんですね。
そこで、猫に使うお金の上限を決めるとか、猫にかかる費用は奥さまが働いたお金から払うとか、現実的な落としどころを一緒に考えていきました。
表面上は猫の問題だけど、紐解いていくとお金の問題だった。
だいたいそうなんです。成婚された方たちの相談も、ほとんどそうですね。最初に見えている問題の奥に、本当の問題がある。
それも、二人を最初から知っているからできるんです。元々の性格や関係性が分かっているから、解決も早い。1時間だけ相談に乗るのでは、多分そこまではいけないと思います。
その帰りに「ここは寺ですね」と言われたんですか?
そうです。帰りがけに紹介者の男性とご飯を食べていたら、「僕が考えている結婚相談所とは全然違う」と言われました。
「ここまでやってくれるから、本当にみんなが駆け込む場所だというのがよく分かった。ここは寺だね」と。
婚活は、相手探しではなく“本当の自分”を見つめる作業
高野さんご自身も、マリッジテラス五反田を“駆け込み寺”のような場所だと感じる瞬間はありますか?
会員さんには、婚活は修行だと言っています。
嫌なことや大変なことの先に、必ずいいことがある。だから修行だと思って頑張って、と。
最初から寺を意識していたわけではないんですけど、気がついたら寺みたいになっていました。ある人からは「そのうち瀬戸内寂聴みたいになりそうだね」と言われたこともあります。
「婚活を楽しもう」と言う人はいても、「婚活は修行だ」と言う方は珍しい気がします。
そうですね。私は「とりあえずやってみよう」とは言わないです。来る方には、一見すぐにご縁がありそうな方でも必ず、「覚悟してほしい」と伝えます。
これまで自然に人から好意を向けられてきた方でも、結婚に至っていないということは、何かしら引っかかっていることがあるはずなんです。
一見、すぐに決まりそうに見える方でも、その背景に何かあるかもしれないと。
そうです。マリッジテラス五反田のコンセプトは、結局、相手を探すことではないんです。本当の自分を見つめる作業なんですよね。
「こんな人と付き合って嫌なことをされた」「また同じように浮気された」など、いろいろなお話を聞きます。でも紐解いていくと、相手の選び方だけが問題ではないこともある。本人自身の不安が、相手との関係に影響している場合もあります。
その不安はどこから来ているのか。過去の記憶や経験に紐づいていることが多いんです。
婚活の問題に見えて、実は本人の過去や心の癖が関係している。
はい。家族との関係、過去の恋愛、仕事の失敗、学校での経験。本当にいろいろです。
本人は気づいていないことも多いんです。雑談をしながら、いろいろな角度から話していくうちに、人生の棘のようなものが見つかります。
探すつもりはないんですけど、見えてくるんですよね。
人生の棘を抜くように、心の奥をほどいていく
高野さんにとって、その“棘”とはどんなものなのでしょうか。
トラウマやコンプレックスでしょうね。失恋のような過去の恋愛で傷ついた経験、仕事の失敗もある。うまく自分を出せない背景に、幼少期や学生時代の経験があることもあります。
婚活でつまずいたとき、そのつまずきをほどいてみると、心の中に溜まっていたものが多いんです。
それが見えてきたとき、高野さんはどのように向き合うんですか?
まず、話を聞きます。うちの会員さんは、男性も女性も泣く方が多いんですよ。
「誰にも言えなかった」と話してくださる方もいます。一通り泣いて、デトックスするような感じですね。私も一緒に泣くことがあります。可哀想だったね、本当につらかったね、と。
でも、そこで終わりではないんです。
私はトラウマやコンプレックスを、小さい子が持っているぬいぐるみやタオルに例えることがあります。安心するために持っていたものかもしれないけれど、大人になってもずっと握りしめていると、前に進めなくなることがある。
もう立派に育って、仕事をして頑張っている大人なのだから、そこを理由にし続けるのではなく、前を向きましょうと伝えます。
ただ傷を慰めるだけではなく、前を向くところまで伴走する。
そうですね。傷ついたり、嫌なことがあったりして、そこに帰りたい気持ちは分かります。でも、帰っても人生は進んでいくんです。
だから私は、婚活を単なる相手探しではなく、自分がこれまでどこでつまずいてきたのかに気づく機会でもあると思っています。
そして、結婚したいと思ったことが、その人にとって前を向くきっかけになればいいなと思っています。
婚活を通して、人生で同じところにつまずいていることに気づく。そして少しずつ改善して、未来に進んでいく。私はそれを「開運プログラム」と呼んでいます。ここから運を良くしていけばいいじゃない、と。
婚活は修行。だからこそ、運を開くきっかけになる
「婚活は修行」という言葉は、少し厳しくも聞こえます。でも高野さんの話を聞いていると、ただ厳しいだけではなく、前向きな意味があるように感じます。
そうですね。修行というと大変なイメージがあるかもしれません。でも、嫌なことや大変なことの先に、必ずいいことがあると思っているんです。
婚活は、楽しいことばかりではありません。断られることもあるし、うまくいかないこともある。自分の嫌な部分に向き合わなければいけないこともあります。
でも、その経験を通して、自分がどこでつまずいているのかに気づける。そこに気づくことが、結婚だけでなく、その後の人生にもつながっていくと思います。
婚活を、単なる相手探しではなく、人生を変える時間として捉えているんですね。
そうです。人生って、みんな同じところでつまずくんです。
私が話を聞いていると、「そういえば中学の部活の先生にも同じことを言われた」とか、「前の恋人にも言われたことがある」と気づく方もいます。過去にも誰かが気づいてアドバイスしてくれていたのに、本人は聞く耳を持てなかった。
たまたま婚活で来ているだけで、仕事でも人間関係でも、同じポイントでつまずいていることが多いんですよね。
婚活を入口にして、その人の人生のパターンが見えてくる。
そうですね。だから私は、結婚相談所は相手を紹介するだけの場所ではないと思っています。
その人がどこでつまずいているのかを一緒に見つけて、前に進むきっかけを作る場所でもあると思います。
銀座でも青山でもなく、五反田である理由
マリッジテラス五反田という名前にもある通り、高野さんは五反田で相談所をされています。なぜ五反田だったのでしょうか。
もともと五反田でやろうとは決めていました。私自身、五反田歴が長いんです。
最初は周りから反対されました。「なぜ五反田なの」「高輪とかの方がいいんじゃない」と言われたりもしました。でも私は、この街が好きなんですよね。
五反田のどんなところが好きなんですか?
雑多な感じが好きなんです。
きれいに整った街というより、いろいろな人がいるじゃないですか。私が駆け込み寺のような場所になっていることとも、どこかつながっている気がします。
私は子どもの頃から、人に差をつけることが好きではありませんでした。実家は事業をしていて比較的恵まれた環境ではあったのですが、周りにはお風呂のない家の子もいて、みんな銭湯に行っていたんです。私はその銭湯にすごく憧れていました。
銭湯は、いろいろな人が集う場所でもありますよね。
そうですね。誰でも受け入れる場所というか。
それに、私は先天性の心臓疾患もあって、子どもの頃から運動制限がありました。恵まれている部分もあるけれど、自分の力ではどうにもならないこともある。そういう感覚は、ずっとあったのだと思います。
だから、持病がある方や、何か事情を抱えている方にも寄り添えるのかもしれません。恵まれた環境にいる方の感覚も分かるし、大変な経験をしている方の気持ちも分かる。いろいろな人の気持ちが分かるというのは、私の根底にあるのかもしれないですね。
五反田の雑多さと、高野さんの「人に差をつけない」感覚が重なっているように感じます。
そうですね。きれいな街ではないかもしれないけれど、私はこの街が好きです。いろいろな人がいて、いろいろな人生がある。だからこそ、ここでやっている意味があるのかもしれません。
“条件がいい人”より、下り坂で支え合える人を
婚活という修行を通して、会員さんにはどのような結婚をしてほしいと思いますか?
上り坂だけではなく、「人生の下り坂」でも支え合える結婚をしてほしいと思います。
高野さんにとって、下り坂で支え合える人とは、どんな人なのでしょうか。
私は、愛するということは感謝だと思っています。
例えば、笠原さんが「今日はお寿司が食べたい」と言って、私が「本当は焼肉が食べたいけど、お寿司でいいよ」と言ったら、嬉しいじゃないですか。ありがとうと思いますよね。
そうすると次にまた意見が分かれたときは、「この前譲ってくれたから、今日はそちらでいいよ」となるかもしれない。
そういう小さなありがとうを、どれだけ積み重ねられるかだと思うんです。
小さな感謝の積み重ねが、大きな局面で支え合える関係につながる。
そうです。
例えば、親が病気になって近くに住まなければいけないとか、仕事がうまくいかないとか、人生には必ず山も坂もあります。上り坂のときに「ここに住みたいね」「いいね」と言える人はたくさんいると思います。
でも、本当に大変なときにどう支え合えるか。日々の感謝のボールがどれだけ大きいかで、二人の関係性は変わってくると思うんです。
優しい人かどうかだけではなく、お互いに「ありがとう」を積み重ねられるかどうかなんですね。
そうですね。お互いに、自分の大事なものは大事にしながらも、相手の状況に応じて少し下がってあげることができるか。
「大丈夫」と言う人はたくさんいます。でも、本当に下り坂に差しかかったときに、相手のために動けるかどうか。そこが大事だと思います。
愛とは感謝。小さな「ありがとう」が夫婦を育てる
「愛とは感謝」という言葉は、とても分かりやすくて、でも深いですね。
私は、家の中に「ありがとう」がなくなったら終わると思っているんです。
夫婦って、毎日一緒にいるからこそ、当たり前になりやすいじゃないですか。でも、相手がしてくれた小さなことに対して「ありがとう」と言えるかどうか。その積み重ねが、愛を育てるのだと思います。
だから、感謝できる結婚生活を送れるような人と出会ってもらいたいんです。
条件の良さだけではなく、感謝し合える関係を築けるかどうかが大切なんですね。
そうですね。どんなに優しい人でも、その優しさに慣れて「ありがとう」と言わなくなったら、相手もやってくれなくなるかもしれない。
結局、相手を輝かせるのも自分次第だと思うんです。
紹介が紹介を呼ぶのは、“悩んだときに思い出す場所”だから
マリッジテラス五反田は紹介が多いと伺いました。紹介が多いというのは、信頼の証拠でもあると思います。どのような方から紹介されることが多いのでしょうか。
最初は母校のつながりが大きかったです。大学の会報に載せていただいたご縁で来てくださったり、卒業生の親御さんが娘さんを連れてきてくださったり。
親御さんからの紹介の場合、私にとってクライアントは二人いるんです。
親御さんの気持ちも、娘さんご本人の気持ちも分かる。両方の意見を聞きながら、ちょうどいいところに収めていく。そういうところまで丁寧に向き合うことを大切にしています。
だから「どこで結婚したの?」となったときに、「あそこいいわよ」と紹介してくださるのだと思います。
紹介が、また次の紹介につながっていくんですね。
そうですね。ある料理教室に通っていた方がうちで結婚されて、同じ料理教室から何人も来てくださったこともあります。
でも、それは結婚した本人がすごく幸せそうでなければ起きないことだと思うんです。「結婚してよかった」と本人が言っていて、周りから見ても素敵な結婚だと感じるから、紹介につながる。
紹介してくださる方からは、「面倒見がいい」「信頼できる」「ビジネスだけでやっていない」と言っていただくことがあります。
「親友よりも信用できる」と言われたこともあると伺いました。
ありますね。親友にも言えないことを話してくださる方もいます。
それは、友人ではないから話せることもあるのだと思います。友人だと、どうしても関係性が近すぎる。親にも言えない、親友にも言えない。でも、ここなら話せる。そういう場所でありたいと思っています。
高野さんにとって、マリッジテラス五反田は婚活者にとってどんな場所でありたいですか?
困った人が駆け込んで、ここで温かい話を聞いて、また出ていく場所。
悩んだときに思い出す場所でありたいですね。
結婚相手を探すだけではなく、前を向くための場所
高野さんの話を聞いていると、結婚相談所という言葉の輪郭が少し変わっていく。
そこは、単に条件に合う相手を紹介する場所ではない。
婚活者が抱えてきた不安や過去の傷、自分でも気づかなかった心の癖を、少しずつ言葉にしていく場所でもある。
猫をめぐる夫婦喧嘩の奥に、お金の使い方への不満があったように。
「いい人がいない」という悩みの奥に、本当は自分自身への不安が隠れていることがあるように。
高野さんは、表面に見えている問題の奥へ、ゆっくりと手を伸ばす。
ときに一緒に泣き、ときに厳しい言葉をかけながら、婚活者が前を向くための“棘”を抜いていく。
高野さんと話していると、「ここは寺ですね」と言われる理由がわかる。
困ったときに駆け込めること。
泣いてもいいこと。
話したあとに、もう一度前を向けること。
マリッジテラス五反田は、結婚相手を探すだけの場所ではない。
悩んだときに思い出し、話して、泣いて、また歩き出す場所。
だから人は、高野洋子さんのもとを、誰かに紹介したくなるのかもしれない。



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